年が明けても僕の心は常に曇天。
元々僕は行事ごとに興味を持てない性分というもあるのだが、それ以上に僕を憂鬱にさせるのはこの携帯電話。
もっと掻い摘んで言えば、真紅から送られてくるメールのせいだった。

 

件名 にょろーん♪
to 真紅
本文

やあやあこんにちはだよくんくんっ!
この間テレビで「鈴岡部ハヒルの躁鬱」ってアニメがやってたにょろ!
凄いタイトルだったから気になって見てみたんだけどさー、もう内容がめがっさ好奇心なのさっ!
これはくんくんも見た方がいいんじゃないっかなー?なのだわ☆にょろーん
ではでは次回も、くっるみんみん♪♪

 

最近の奴のメールは特に意味がわからない。
奴は根っからのアニメ好きで、しばしばアニメキャラの影響を受ける。
今は鈴岡部ハヒルとか言うのに嵌っているようで、こんなにょろにょろとした口調になっている訳だ。
普段の真紅とのギャップを考えると微笑ましいのかも知れないが、こんなメールが10分に一度のペースで届くので笑えない。
僕は新年になっても相変わらず着信恐怖症に苛まれる日々だった。
そうそう、真紅からのメールでこれ以外にも悪化した点がある。
奴は本当に「くんくん」とのメールを楽しんでいるらしく、もはやその勢いはライフワークと言っても過言ではない位で。
二人のメールをより楽しいものにするため、日々携帯電話の説明書を見て勉強しているらしい。
そのお陰で奴は携帯電話について無駄に詳しくなってしまい、ついに写メやら動画撮影にまで手を出してしまったのだ。

「携帯電話で写真を送れる様になったのだわ!くんくん、何かリクエストはあるかしら?」

ある時こんなメールが届いたので、ついついふざけて「じゃあ真紅ちゃんのセクシーショットをお願い!」なんて送ってみた。
そうしたら数分後、裸エプロン姿の写メが送られてきてマジで笑い死ぬかと思った。
こいつはくんくんの為なら本当に何でもやる。
脱げと言ったらマジで脱ぐし、僕を殺せといったら深夜に包丁を持って現れそうだ。
メール一つで真紅を従順な下僕に出来るのは面白いが、その従順さが少し怖い。

『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……』

お馴染みの着信音。
送信者はもちろん真紅だ。

 

件名 くんくんの凛々しいお姿♪
From 真紅
本文

是非見てみたいのだわー
ねね、くんくんも写真つきメールを送ってくださらない?
くんくんの事を想うとどっきゅんハートがピカリンMAXいちごるんるんなのだわ♪♪
でゎでゎ、くんくんまたね

 

相変わらずのこのテンション。
もはやこの口調、「真紅語」として新ジャンルを確立しているような気がしないでもない。
例えばこんな文があったとする。
「こんにちは、ジュンです。久しぶりですね、元気でしたか?」
これを真紅語に訳すとこうなる。

「おハロー☆ジュンなのだわベリーひさしんぐ?キャルーン☆☆貴方と会うのがはっきゅん楽しみ×2で夜も眠れなかったのだわ〜☆その後お変わりはなくて?恋人は出来たの?もし良ければ、この私が恋人に……っきゃー!!私ったら何てセクシャルバイオレット大胆→でもそこがまたフルーティートロイメントにょろーん☆♪(笑)」

何じゃこりゃ。
こんなのが流行ったら日本は確実に終わるぞ。
真紅語が流行した世界を少し想像してみる。
「……や、止めよう。心証に悪すぎる。それよりもまずは――」
そうだ、写メールだ。
写真を送れと言われても、ちょっと困ったな。
僕の部屋にある真紅のくんくん人形の写真を撮ってもいいのだけれど、もし自分のコレクションだと気づかれた場合の事をかんがえるとなあ……。
――やはりここは安全に行くか。
僕は机の引き出しから紙とペンを取り出し、ささっと一枚の絵を書き上げた。
それを携帯で撮影し、メール本文に添付して送信する。

 

件名 送ってみたよー
to 真紅
本文

正面から撮ってもらったんだけど、こんな感じでどうかな?

(40kb)僕の正面.jpg

 

「アイツのくんくん愛ならこれでも大丈夫だろ」
若干下半身が手抜きに見えなくも無いが、まあ大丈夫だろう。
「くんくんから写メールがきた」という事実だけで、奴は飛び上がる程に喜ぶだろうから。

 

っきゃあああああああああああああプリティーよくんくうううううううううううううううううん♪♪♪☆☆☆

 

ほらきた。
しかし奴の心理がわかった所で全く嬉しくも無かった。
そして数分後、すぐさま奴から返信が来る。

 

件名 超素敵よくんくん
From 真紅
本文

もっと画像を

 

もはや必要最低限の理性しか働いとらんな、これは。
あの絵一枚だけでここまで本能丸出しになるとは。
少し面白くもあり、少し気味悪くもある。
だけど、どうせだからもう少し遊んでやろう。

 

件名 こんなのはどうかな?
to 真紅
本文

必殺技の練習をしていたら、偶然成功しちゃったんだ!
是非真紅ちゃんにも見て欲しいな!

(50kb)必殺技.jpg

 

ささっと描き上げて送信。
面倒なのでかなり手を抜いたが、くんくん中毒な真紅ならこれで十分だろう。

「き、きたわ!くんくんからのメール!」

1階から響く、真紅の甲高い声。
ほらきた、次は叫ぶぞ。

 

ひゃあああああああああああくんくうううううううううううううううううガフッ!

 

「……」
今何か変な音が混じったような気がする。
気のせいだろうか。
少しして、真紅からのメールが届く。

 

件名 凄く素敵よ
From 真紅
本文

余りの凛々しさに鼻血が止まらないのだわ。
本当に素敵よくんくん。
ティッシュを取ってくるので、少し待ってて頂戴?

 

ああ、あれは鼻血が噴出す音だったのか。
血を流す人形とか、ますます呪い人形らしくなってきたな。
奴の姿を写真に収めて、神社に鑑定してもらいに行くのも良いかもしれない。
神社の人はどんな反応をするんだろうか。
まあ、どっちにしろ今日はもう疲れた。
待っててと言われたが、だるいので今日は寝る事にする。
ベッドに寝そべったところで、再び着信音がなった。
真紅からだ。

 

件名 やっと鼻血が止まったのだわ
From 真紅
本文

画像もっと

 

知るか。

 

SS目次 TOP