未読メール:100件

もはや僕の受信ボックスは全て真紅のメールで埋まりつつあった。
100件を越えると自動で古いほうから削除されるので、その分を数えるとどれだけの数が届いたのか検討もつかない。
おまけに5分置きに着信音が鳴り響くので、僕は若干ノイローゼになりつつある。
奴のメールはフィルターを易々突破してくるからタチが悪い。

何かこの現状を打破する方法はないものか。

・真紅の携帯を破壊
これはダメだ。
すぐに携帯の時間を巻き戻されてしまうので、全く意味がない。

・携帯を隠す
これもダメだ。
携帯がなくなったら、恐らく僕に捜索を命じるだろう。
見つからなかったら奴は泣く。絶対泣く。

・無視
無視にも限度がある。
5分おきに来る様ではもうどうしようもない。

・諦めて相手をする
身が持たない。

 

もはや真紅に対抗する手立てはないのだろうか。
僕はぐったりと布団に垂れる。
あぁまた着信音が……。

 

 

−同時刻リビング−

 

 

「っはぁ〜〜くんくんからのお返事が楽しみなのだわー☆」
ソファーに腰掛け、足をぶらぶらさせてメールを待つ真紅。
この姿はもはや、苺大福を前にした雛苺と何ら変わりない。
まぁ、そんな事を言うと真っ赤になって怒られるのだけど。
「ねぇ真紅」
「何かしら蒼星石?……ふふっ
既に笑みが隠しきれていない。
よほど返信に期待しているのだろう。
余りにも楽しそうにしているものだから、ボクもちょっと気になってくる。
くんくんのメールって一体どんなのだろう……?
「あのさ、少しメール見せてもらってもいいかな?」
「どうしてかしら?」
「くんくんってどんなメール送ってくるのかなって、ちょっと気になったんだ」
「ふぅん……まぁいいわ。丁度くんくん探偵が始まる時間だし、その間だけよ?」
真紅から携帯電話を受け取る。
その携帯にはくんくんのシールが大量に貼られていて、既に元の姿がよくわからない。
くんくん愛もここまで来ると凄いなぁ……。
少し感心しながらEメールメニューを開いた。
おじいさんが仕事で使っているのを見ているから、ボクも少しは携帯の扱い方が分かる。
「……あった」
早速受信ボックス、送信ボックスを総合して、どんなやり取りがされているのかを調べてみる。

 

 

件名 くωくωへ
To くんくん♪
本文

にゅー
今日もくんくんの愛らしい活躍、胸がきゅんきゅんしながら見てたのだわ☆
途中ペロリーナ男爵が泥船で突撃してきた時は、思わずゲバ棒持って殴りに行こうかと思ってしまったのだわ。
けれどくんくんが無事で本当に良かったのだわ〜♪
その後ペロリーナ男爵が捨てゼリフを吐きつつ退散、とってもいい気味なのだわ。
きっと彼にも、くんくんに手を出すとそうなるという、いい教訓になったはずなのだわ☆

くんくん、この中にメッセージが隠れているんだけど……くんくんに探せるかしら?
ふふっ☆探偵さんのお手並みは意見なのだわ〜

 

 

件名 わかったよ!
From くんくん♪
本文

にゅー
今日もくんくんの愛らしい活躍、胸がきゅんきゅんしながら見てたのだわ☆
途中ペロリーナ男爵が泥船で突撃してきた時は、思わず
バ棒持って殴りに行こうかと思ってしまったのだわ。
けれどくんくんが無事で本当に良かったのだわ〜♪
その後ペ
リーナ男爵が捨てゼリフを吐きつつ退散、とってもいい気味なのだわ。
きっと彼にも、くんくんに手を出すと
そうなるという、いい教訓になったはずなのだわ☆

こうかなぁ。
僕も同感だよ!
最近メールを見ていると超気分が悪くなるんだ。
どうしてかなぁ。あははっ♪

 

 

件名 もう、くωくωったら(笑)
To くんくん♪
本文

にゅー
今日もくんくんの
らしい活躍、胸がきゅんきゅんながら見てたのだわ☆
途中ペロリーナ男爵が泥船で突撃し
きた時は、思わずゲバ棒持って殴りに行こうかと思ってしったのだわ。
けれどくんくんが無事で本当に良かったのだわ〜♪
その後ペロリーナ男爵が捨てゼリフを吐きつつ退散、とってもいい気味なのだわ。
きっと彼にも、くんくんに手を出
とそうなるという、いい教訓になったはずなのだわ☆

ナイスボケなのだわくんくん♪
思わず噴出してしまって、雛苺に笑われてしまったのだわ。
まぁ、うにゅーでグルグル巻きにしてやったのだけれど。

 

 

件名 てへっ(吐血)
From くんくん♪
本文

いやぁ、勘違いしちゃったなあ。
えへへ、このまま消えてなくなりたいよ。
跡形も残さず!現世から永久に!
うわあああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

件名 素敵☆
To くんくん♪
本文

詩的なのだわくんくん
でも大丈夫。
例え消えてしまっても、私は貴方とずっと一緒にいるのだわ♪
安心してね、くんくん*ノωノ

 

 

件名 もう許してください
From くんくん♪
本文

生きていて、ごめんなさい。

 

 

「よ、弱ってるなぁくんくん」
さすがにちょっと引いた。
真紅の執拗なまでの精神攻撃が……相当効いてるねこれ。
本人はそんな気ないんだろうけどなぁ……。
「……」
そんな事を思っていると、少しイケナイ考えが頭をよぎった。
チラっと真紅の方を見る。
くんくん探偵に夢中、携帯の事など忘れているだろう。
「ちょっとだけなら……いいよね?」
ボクの中をよぎった、少しイケナイ考え。

くんくんにメールを送ってみたい。

真紅の携帯なのはわかってる。
でも、でもでも……。
(……ボクもくんくん大好きなんだもん)
おじいさんにお願いして、くんくん抱き枕を買ってもらったり。
おばあさんにはくんくんのパジャマを編んでもらったり。
実はくんくん探偵も毎週欠かさず録画して、毎日寝る前に見たりしてる。
まぁ、みんなには内緒なんだけどね。

そんな訳で……ちょっとだけ。
真紅には内緒で、ちょっとだけ送ってみよう。
ごめんね真紅。
ボクは緊張しながら、初めてのメールを打ち始めた。

 

 

「……静かになったな」

5分置きに奏でられる魔の旋律が、先程からプッツリと途絶えた事に気づく。
もしかして飽きたんだろうか。
いやいや奴に限ってそれはありえない。
そういえば今日は何曜日だったっけ。
くんくん探偵の放送日だったかもしれない。
その時間だけでも開放されるのは素直に嬉しい。
が、そこまで考えて、僕もとうとう病んできたなと思った。
真紅の魔手恐るべし。
この空き時間を利用して、受信ボックスを一斉削除。
100件全てが消えてちょっと気持ちがいい。
恍惚の表情を浮かべていると、ピロピロと再び魔の旋律が奏でられた。
一気に現実に引き戻される僕。
「もうきたのか……」
ガックリと項垂れる僕。
またあの地獄が再開される。
ああ考えただけで心臓が止まりそうだ……。
憂鬱になりつつ、メールを見てみる。
「……あれ?」
ちょっとだけ。
ちょっとだけ違和感があった。
違和感というか、件名が事実だとするとこれは……

新たなるカオスの予感。

 

 

件名 はじめまして、蒼星石といいます。
From 真紅
本文

くんくんさん、こんにちは。
突然メールをしてごめんなさい。驚きましたか?
妹の真紅が楽しそうに貴方とメールをしているのを見て、ボクもやってみたくなっちゃいました。
なので妹の携帯電話から失礼します。
最近ちょっとお疲れみたいですね。
その原因の一つに妹の執拗なメールが入っているみたいで、姉として申し訳なく思います。
本当にごめんなさい。
でも、彼女は本当はいい子なんです。
ただ、貴方に対する愛がちょっと間違った方向へ進んでしまっただけ。
それを少しだけでも理解していただけると、姉として幸いです。
では長文失礼しました。

P.S. 
ボクも貴方の大ファンです。
応援してますので、これからも身体に気をつけて頑張ってくださいね♪

 

 

「……いい子だ」
ちょっと涙が出た。
真紅と違って、何て癒し系なのか!
これだけでもう、今日一日のデスレターを耐えられそうだ。
せっかくだし、返信でも書いてやるかな。

 

 

「……はぁ」
緊張したぁ。
やっぱり実際に打つとなると、結構大変なんだね。メールって。
感嘆符を使って文体に表情を付けたかったけど、イマイチ使いどころがわかりにくかったなー。
それにちょっと、記号を使うのは恥ずかしいような……。
最後の音符マークを使うのも、結構勇気が必要だったし。
これはちょっと真紅を見習った方がいいかもね。

――ハートマークなんて想像するだけで恥ずかしいけど。

勝手に想像して悶えていると、突然真紅の携帯から着信音。
少し驚きながら確認してみると……なんと、くんくんからの返信だった。

 

 

件名 メールありがとう!
To くんくん♪
本文

蒼星石ちゃん、メールありがとう!
おかげで元気が出たよ!このとーりっ!(三点倒立)
蒼星石ちゃんはとっても妹想いなんだね。素晴らしい!
その心をこれからも大切にネ☆
ではでは、来週のくんくん探偵もー……よろしくんくんっ!!

 

 

「……っ」
メールを読み終えると、思わずへにゃっとその場にへたり込んでしまう。
キュンってきた。
どうしようどうしようどうしよう。
すごく嬉しい。
ずっと胸がドキドキしてる……。

携帯を抱きしめてうっとりとしていると、不意にくんくん探偵のEDテーマが聞こえてきた。
もうそんな時間か……。
ボクは急いで送信履歴を削除する。
くんくんからのメールは……おじいさんの携帯アドレス宛てに送っておいた。
だって、くんくんから着た初めてのメールだもの。
宝物にしたいからね。
おじいさん宛てに送信後、そのメールも削除。
これで大丈夫かな?
丁度くんくん探偵も終わったようだ。
ボクは携帯を持って真紅の元へ。
「真紅、これありがとう」
携帯を手渡すと、真紅は嬉々として画面を弄り始めた。
恐らく、早くもくんくん宛てにメールを書いているのだろう。
そんな真紅の表情は、本当に楽しそうに見える。
「じゃあ、ボクはそろそろ帰るね」
「あら、早いのね」
「ちょっとね」
ボクは軽くウインクをして、その場を去った。

 

 

「おや、おかえり蒼星石」
「今シチューが出来るからね。もうちょっとお待ち」
「ただいま。おじいさん、おばあさん」
鞄に乗って家に帰ると、夕食の支度の真っ最中。
おじいさんがテーブルに食器を並べていたので、こっそり話しかけてみた。
「あの、おじいさん……」
「ん?」
「あの……」
「どうしたんだい蒼星石?」
おじいさんはニコニコしながら、僕の話の続きを待っている。
だからボクは、勇気を出して言ってみることした。

 

 

「えっと……あのね、携帯電話……欲しいなって……」

 

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