その日、僕はいつものように通販をしていた。

 

ブリティッシュこけし『なでしこ』

本場熊本直送のこけし、なでしこ
貴婦人もビックリなメキシカン風装飾がクール!
今ならモヒカン、アフロ、ちょびヒゲの3点セットをつけて……な、なんと大特価27万5千円!!
今夜限りの大セール、お見逃しなく!

 

詐欺だろこれ。

まぁクーリングオフするから問題ないか。
買いっと。
「じゅんー!」
ブリティッシュこけしを買い物カゴに入れたとき、雛苺が騒々しく部屋に入ってきた。
「何だよ。もう人形は直さないぞ」
前回と同じ轍を踏むのは真っ平ごめんなので、一応釘を打っておく。
すると雛苺は頭をぶんぶん振りながら、僕の手を引っ張ってきた。
「違うのー!ヒナ、お菓子作ったの!だからジュンにも食べてほしいのーっ♪」
「ちょ、おい引っ張るなよ!俺はいらないぞ!!」
手を振り払って抵抗するものの、雛苺の掌からシュルシュルと出てきた苺の轍で、無理やり引きずられてしまう。
「食べなきゃめっ!」
「それを言うなら引きずっちゃめっ!」

ずーるずーる
ずーるずーる

雑巾がけの様に廊下を引きずられる僕。
そして階段の前へ。
「雛苺、この体制で階段降りるのはちょっと無理があると思うんだが」
「心配ないのー☆」
そして僕は、勢い良く階段から突き落とされた。

ガンガンガンガン
ガンガンガンガンガンガン


「ほらね♪」
「瀕死だよバカ」

全身を強く打ち、意識を混濁させながらも、なんとかキッチンへ到着した。
今病院に行ったとしたら、恐らく治療費だけでうにゅーが数十個は買えるだろう。
「ジュンはここで座っててなのー」
雛苺に言われた通りテーブルに腰掛ける。
そのままぐったりとテーブルに突っ伏していたのだが、何やらカツンカツンと音がするので振り向いてみると、雛苺がコンロの上の鍋を弄っていた。
「そういや真紅達はどうしたんだ?お菓子と聞いたら真っ先に飛んできそうなのに」
「ん、真紅達ならもうお菓子食べたよ?」
そう言って、雛苺がテーブルに鍋を置いた。
ボコボコと泡を弾けさせて沸騰している鍋の中身は、何と言うか――。

甘ずっぱい匂いがして
泡が紫色で
なんだこれ
何が入っているんだよ

「……なあ雛苺、これの材料は何だ」
「んーとね」

雛苺が身振り手振りで材料を説明してくれた。

「白くてー」
「甘くてー」
「ぬヴぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉってしてるのーっ!」


「わかんねぇよ」

もう何かこの説明だけでお腹いっぱいになってきた。
むしろ、これを食べたら僕は死ぬんじゃないのか。
材料が白いのに、何で紫色が生まれるんだよ。
死亡フラグが3つも4つも立っている気がしてならなかった。

「……で、これを真紅達は食べたのか」
「うん」
「真紅達はどこにいる?」
「そこ」

雛苺がTVの前を指差した。
ああ、確かにいた。
真紅に、翠星石に、蒼星石。
3人とも床に倒れていた。

「おい何があった」

何がというか、物凄い心当たりがあるんだけれども。
しかし、これはヤバイ。
僕の第6感が危険信号を発している。
今逃げないと絶対にヤバイ。

「……ちょっと用事を思い出したよ。すぐ戻ってくるから」

そう言って僕が席を立とうとすると、雛苺の苺轍が飛んできた。
あっという間に全身をぐるぐる巻きにされてしまった僕は、全く身動きが取れなくなってしまった。
もう、逃げることすら許されないのか。
鍋の中身をスプーンで掬った雛苺が、徐々にこちらへと近づいてくる。
スプーンに載せられて尚、その物体はぐつぐつと沸騰し続けていた。

「じゅんもたべるのー」

「おいしいのー」

「うにゅーなのよ〜」

 

さようなら、現世。

 

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