今日も絶好の通販日和だ。

 

最強トランプ、その名も『不沈要塞』

何故ならカードの全てが『ジョーカー』で形成されているからです。
あなたの手札は全てジョーカー。
あなたが出すのも全てジョーカー。
もはや負けることはありません!
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このトランプさえ持っていれば、あなたは絶対他の人に負けることはありません!

 

「負けないけど勝てねえよ」

相手の手札もジョーカーになるから永遠に引き分けだろう。
でも買いたくなってしまう。
ぽちっ。
――買っちゃった。
購入して早々もクーリングオフ計画を立てていると、突然視界が揺れた。

ガタガタガタガタガタ

「っ!?」
結構強く揺れている。
まさか地震か――!
「う、うわっ!誰か助けてー!」
「きゃははっ
「とでも言うと思ったのかコラ」
ガタガタと椅子を揺らしている雛苺にゲンコツをお見舞いする。
スカッ
振り下ろした拳が空を切る。
「――あれ?」
殴ろうとしたが、既に目の前に雛苺の姿はなかった。
――おかしい。
何か、今一瞬で雛苺が消えたように見えたぞ。
机の下やベッドの下を探していると、雛苺が普通にドアを開けて入ってきた。
「おい雛苺、お前さっき椅子揺らしてただろ」
「えへへっ♪」
雛苺はニコニコと満面の笑みを浮かべている。
全く意味がわからないが、よからぬ事を企んでいるだろう事は理解できた。
「――で、今日は何しに来たんだよ」
「うん、あのね……」
途端にもじもじとはにかむ雛苺。
何だ何だ、今日はヤケにしおらしいな。
――いや、気味が悪いというべきか。
「えっとね……ヒナ、たまにはジュンと遊びたいの……」
「は?」
床と僕とを交互にチラチラ見る雛苺。
毎日僕の部屋に押しかけてくるアレは遊びじゃなかったのか。
っていうか、絶対何か企んでるだろ。
じとーっと雛苺を見つめていると、雛苺瞳が急に潤みだした。
「――だめ?」
雛苺が上目遣いで僕を見つめる。
何なんだコイツは。
これは絶対裏に何かあると見て間違いないな。
返事は慎重にしなければならない――!
受けるべきか、やっぱり受けないべきか。
しかし、このまま追い返すのも何だか後味が悪そうだ。
というか、追い返したら追い返したで後々何かありそうだ。
――仕方ない。
僕は渋々要求を受けてやる事にした。

「――はぁ。少しだけだぞ」

これが間違いだった。
ふと誰かの視線を感じてドアの所を見ると、何やら緑色の布と長い茶髪がと見え隠れしていた。
僕は瞬時に正体がわかり、要求を受けた事を後悔した。

「やったー!成功なの〜〜〜〜っ

嬉しそうに飛び跳ねる雛苺。
成功……ね。
そうですかやっぱり作戦があったんですか。
僕が無言でドアを指差すと、案の定雛苺が駆け出していった。
『翠星石すごいのー!翠星石の言う通りにしたら、ジュンが遊んでくれるって言ったの〜♪』
『ちっ、チビ苺のバカ野郎です!今出てきやがったらバレバレになっちまうじゃねぇですか!!』
――あの野郎。
やはり最初からそういう罠だったのか。
ムカついたので、ワザとらしくゴホンと咳払いをしてみる。
直後に聞こえる『ひっ!』『ガタガタガタガタ』『ひゃあぁぁぁああぁぁ』というコンボ。
つくづく騒がしい奴だ。
「ねぇ、ねぇジュンっ!」
勉強を始めようと机に向かったところで、雛苺が僕の腕にしがみ付いて来る。
その顔はキラキラと輝いていた。
そんなに僕を嵌めた事が嬉しいのかよ、お前は。
「今度は何だよ」
「ジュンは何して遊びたい?ヒナね、い〜〜っぱい考えてきたのぉっ♪」
どこに入れてたんだか、トランプだの画用紙だのをボロボロと取り出す雛苺。
「うるさいなぁ。もういいだろ」
「う?」
雛苺は状況がよく飲み込めていないのか、手に取ったトランプと僕を交互に見つめていた。
「僕を騙せて作戦成功なんだろ?ならもういいじゃないか」
「え……?」
途端に雛苺の表情が曇る。
「あ、あの……」
「用が終わったんなら帰れよな」
僕が少しキツめに言うと、雛苺はビクっと肩をすくめた。
カタカタと肩を震わせ、瞳を潤ませながら僕を見つめている。
――言い過ぎたか?
いや、でも普段のコイツの行動を思うとこれ位は――。
「あの、あのね……」
所々しゃくり上げながら、雛苺が語りだした。

「ジュンと遊びたかったのはホントなの…」
「けど、普通に言っても…ジュン、きっと遊んでくれないと思ったから…」
「そしたらね、翠星石が……こうやったらきっと遊んでくれるって……」
「ジュン……ごめんなさぁい……」

――そんな風に言われたら、まるでこっちが悪いみたいじゃないか。
いや、実際そうなのかもしれないけどさ。

――ああもう!

「――いいよ、少しだけ付き合ってやるよ」
「ほんとっ!?」
僕がそう言うと、雛苺は途端にぱああっと顔を輝かせた。
何て単純なヤツだ。
「じゃあね、じゃあね!ジュンも出してなのー!」
「……何をだよ」
これこれっ!と雛苺が自身の背後を指差す。
――その雛苺の指の先に、これまたミニサイズの雛苺がいた。
「な、何だよそれ――?」
「スタンドなのー」
ミニ苺がぴょんぴょんと飛び跳ねている。

――おい、まさか。

「――お前か、さっき机を揺らしてたのは」
「ジュンも出して?」
「出ねえよ」

 

もう嫌だこの生活。

 

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