拝啓

お前ら今日はとても天気が悪いですね。
私、前原圭一は現在とてもピンチです。
早めに何とかしてください。今にも絶命しそうです。
ではよろしくお願いします。

敬具

P.S.沙都子覚えてろ。

 

「……よし」
少し痺れる指で辛うじて全文を書き上げる。
奇跡的に両手が無事で助かったぜ。

事の始まりは放課後の罰ゲーム。
DX人生下り坂ゲームで、俺は総合成績最下位になってしまった。
よって恒例のバツゲームという訳だ。
罰ゲームの決定方法はくじ引き。
紙箱の中に多数散りばめられた三角くじから一枚引き、そのくじに書いてあった指令を実行するというものだ。
俺はやった。
右手に全身全霊を込めて……

刺す様に突き!

風の様に引く!

『ミニスカメイド服で裏山を散歩』

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
あの姿で道を歩くだと……!?
しかも魅音が嬉々として下着まで用意してくれやがった。
ああそうさ上も下も女物さ!笑いたきゃ俺を笑えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
……でもまぁ、裏山なら人通りもないから……まだマシな方かもな。

などと考えた俺が甘かった。

すっかり失念していたが、裏山一帯は沙都子のトラップエリアじゃねぇか……!
おかげで俺は辿り着いて早々地獄を見る羽目になった。
落ち葉に隠した小型地雷。
枝に偽装したスタンガン。
赤外線感知の麻酔銃。
もはや明確な殺意を持っているとしか思えない。
オマケに突如切り株から噴出してきた謎のガスのせいで、何やら喉が痒い。
大丈夫なのかよこれ。
世間一般でいう絶体絶命ってとこか。
「……どうすっかなぁ」
改めて状況確認。
現在地上3〜4mの辺りに宙吊り。
身体全体を硬めの網で包まれ、両足首を足枷の様な物でガッチリ繋がれている。
唯一自由に動かせるのは両手だけ
無理に身体を動かすと落下して大怪我をしそうだ。
だから俺はポケットから紙とペンを取り出し、SOSの手紙を書いた。
どうかみんなの元へ届いてくれればいいのだが……。
小さく畳んだ手紙を網の隙間から落とす。
風に少し流されつつ落下した手紙は、すぐさま落ち葉の間に埋まって見えなくなった。

「ってこれじゃ気づいてもらえNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」

まぁ落とす前からオチはわかっていたさ。
大体アイツらは「ついてく」とは言ったものの、行動を共にはしていない。
どうせ陰から俺の行動を見てせせら笑っているのだろう。
でも俺は逸る気持ちを抑えられなかったんだ。
ああ大空けと笑ってくれ……。

……なんて言ってる場合じゃねぇよなこれは。
こんな状況を監視されてるなんて恥ずかしすぎる…!
きっとパンツ見えてるぞパンツ!!
うおおおおおおおおおおおお誰か出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
網を無理に引きちぎろうとするも、硬くてビクともしない。

落ち着け前原圭一。
ピンチな時こそクールになれ。
小川を流れる一枚の葉の様に柔軟に、湖畔に落ちる一滴の如く閃くんだ!
まず今俺を捕らえているこの網を分析しろ。
一見この網は頑丈な縄のような網だ。
しかし注意深く見ると、所々痛んでいる部分がある。
恐らくこのトラップは相当昔に仕掛けられた物なのだろう。
この痛んだ部分を突けば抜けられそうだ……!
そうと決まれば早い。
ボールペンの芯で思いっ切り突く!突く!突く!!
するとどうだ!
見事に網が切れ、小さな穴が出来た。
この調子だ圭一!
ガシガシと次々に網を削る。
意外にも10分程で脱出可能な程のサイズの穴が完成した。

……だが問題はここからだ。
高さ3〜4mの位置から足枷をした状態で飛び降りて、果たして無事でいられるのだろうか。
しかも着地位置に罠がないとは限らない。
あの沙都子のことだ、連鎖式トラップの続きがある可能性も考えないといけない。
どうする前原圭一。
このトラップをクールに回避する術を考え……

ずるっ。

「あ」

すべった。
網を掴む間もなく、頭から落下する俺。
ピンチだ圭一!ヤバイぞ圭一!
頭からは危険すぎる!
ひとまず身体を捻って方向転換だ!
ぐきっ。

「アッー!」

腰に激痛が走る。
クソッ、捻り所が悪いかったか…!
けれどひとまず窮地は脱した!
後は上手く受身を取って衝撃和らげろ圭一……!

ドゴォッ!

「ウボァ」

鈍い音がして奇声を上げる俺。
そもそも受身の方法を知りませんでした。
背中から地面に叩きつけられた形になる。
近くの茂みから笑い声が聞こえた気がしたが無視する。

さて、経過はさて置きとりあえず自由の身となった訳だ。
しかし迂闊に動くとトラップに掛かる事は必至だ。
足枷が有るので尚の事慎重に動かざるを得ない。
試しに一歩踏み出してみる。

ダンッ!

木々の間からボウガンの矢が飛び出し、爪先を掠って地面に突き刺さった。
……いや、死ぬって。
一歩踏み出しただけでコレかよ……。
かと言っていつまでも留まっていると、体温感知とかでトラップが作動しそうだ。
……沙都子め、帰ったら絶対しばく。
そのためにも何としても無事に帰還せねば。
何、冷静になればそんなに難しい事ではない。
落ち着いて沙都子の思考を読むんだ。
ヤツならどこに仕掛けるか、何を利用するか。
今の俺なら読める!絶対にいける!!
自分を信じろ前原圭一ィッ!!

大きく深呼吸。
周囲を見渡す。
何か目に付くものは……否、違うな。
トラップは何気なく通過する場所に仕掛けるものだ。でないと意味がない。
今度は足元を見回してみる。
枯れ枝、小石、落ち葉など細々した物が落ちている。
出来れば全て回避して歩きたい所だが、この足枷がある状況ではどれも踏まずに進む事など出来ない。
……落ち着いて考えろ前原圭一。
この場合、いずれかは確実にトラップだ。
少しでも踏んだり、位置をずらした時点で作動するのだろう。
矢が飛んでくるか、網が降ってくるか。
しかしどちらの場合でも、そのトラップは恐らく牽制用。
俺が回避した先にこそ、より威力の高い物が仕掛けてあるはず!
さぁどう出る。
枯れ枝の上を行くか、小石か、はたまた落ち葉か。
「チッ、沙都子のヤローめ……」
思わず悪態をつく。
その瞬間地面から槍が突き出してきた。
「うぉッ!?」
その声に反応するかのように、ギロチンの刃が落下してくる。
畜生、音声感知だと…!
……面白いじゃねぇか!!
咄嗟に槍を抜き、全力でギロチンに叩きつける!
キイン!
反動に少しよろめくものの、上手くギロチンの軌道を変えることに成功した。
続いて槍の刃で足枷を突く!!
数回突くと両足を繋ぐ鎖の部分が壊れ、足元が自由になった。
っしゃおら!これで本領発揮だぜ!
フルパワーの俺を易々倒せると思うな!
あえてトラップを正面突破してくれるぅぅぅぅぅぅぅッ!!

勢いよく一歩を踏み出す。
足元の小石を踏んだ瞬間、カチリと音がした。
「甘い!」
俺はジャガーの如く飛ぶ!
少し遅れて小石の周囲から大量の銛が突き出た。
そうだ、そのまま勢いを殺すな圭一!
飛んだ先の大木を足場にして、思いっきり蹴りつける!
勢いを殺さず、否。更に加速するのだ!
もう何人たりとも俺を止められない!

ゴン!

「み゛」

ずるずるずる……ばったり。
「……何だ?」
顔面に激痛。
思いっきり壁にぶつかったか気がしたが、目の前には何もない。
……いや、違うな。

コンッ

正面に手を伸ばすと、何もない所でガラスの様な質感。
……思った通りだ。
まさか透明な壁を配置するとは……!
クッ、一時でも油断した俺のミスだな。
「だがな沙都子!こんなモンで俺は止められねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
渾身の右ストレート!
俺の想いは例え大理石でも貫く!
壁は粉々に砕け、俺の進むべき道を開いてくれた。
だがそれは沙都子も予想済みだったのだろう。
壁が破壊された瞬間、頭上から土管が降ってきた。
こんな巨大な物をどうやって仕掛けんのか一度訊いてみたいもんだ。
だが俺はうろたえない!
あえて土管の中に身を投じる。
幸いにも人一人は余裕で入れるサイズだ。
……これを利用しない手はないッ!
土管はマトモにぶつかれば致命的なダメージになるが、その中に入ってしまえばどうか。
逆に外界からの攻撃を一切遮断する要塞と化すのだッ!!
「次に……こうする!」
土管を内部から蹴飛ばし、横向きに倒す。
そしてそのまま滑車の要領で前進!

「見たかテメェら!これが俺の移動要塞だああああああああああああああッ!!」

途中火矢や弾丸が飛んでくるものの、この完全防御の前ではゴミ同様!
無敵の防御を誇りつつ、斜面を一気に転がり下りる。
ちょっと気持ち悪いが気にしない!
本気になった前原圭一に出来ぬことはないぃぃぃ!!

 

「っははははははは!俺は最強だああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和58年6月17日午後4時27分頃、雛見沢の民家の寝室を土管が突き破るという事故が発生。
家主は事故当時台所にいた為、幸いにも無傷だった。
午後4時35分、警察及び救急隊が到着。
現場を調べた結果、土管の中から少女を発見。
少女は失神しており、身体には多数の傷及び出血が見られたので緊急保護した。
少女の両足には枷の様な物が嵌められており、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いと見て捜査を続けている。
尚、少女は現在入江診療所にて治療を受けており、意識が回復次第聞き込みを行うものとしている。

― 追加メモ ―
保護時の服装から少女と思われたが、後に男性である事が判明。

 

 

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