クールになれ前原圭一!
この状況を打破する方法はきっとある。間違いなくだ!
だから今は決して相手のペースに乗ってはいけない。
耐えろ…耐えて反撃のチャンスを待つんだ……!
そう、ハエ取り草が獲物を待ち構えるように!
……いや、そんな甘ったるいもんじゃないぜ!
ネギしょった鴨をガトリングガンで迎撃するかのようだ!!
そうと決まればちょろいもんだぜ。
さあかかってきやがれ魅音!
俺は逃げも隠れもしねぇ!ここにいる!アイムヒアー!!
全力でぶつかって来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!

「はい王手」
「あ」

魅音の王手が決まった瞬間、部活メンバーがワっと沸き立つ。
「魅ぃちゃんすごい!圧勝だったかな……かなっ!」
「これだけ快勝だと同情の余地も有りませんわね……」
「みー。圭一も歩だけでよく頑張りましたです」
敗北感でグッタリと机に突っ伏している俺を、梨花ちゃんが優しく撫でてくれた。
みーみーなでなでと小さな手に癒される……。
一方魅音は他のメンバーに囲まれ上機嫌だ。
……くそ、こんなはずでは。

そもそも何でこんなゲームになったのか。
確か最初は、昼食後の暇つぶしで普通の王様ゲームをやっていたはず。
二番が五番に落書きをする、そんな感じでまったり進行していた。
……しかし、この時の俺は甘かったのだ。
昼食後だからといって、何の考えもなしに王様ゲームをするか……?
普通の人間なら別に問題はないだろう。
だがそこは部活メンバー。
ただの王様ゲームで終わるはずがなかったのだ。

「一番と三番で将棋をしてください。しかも三番は歩しか使っちゃめーなのです」

かくして俺と魅音の将棋対決が始まっ……というかもはやイジメではないのかこれは。
むしろ、よく考えたら俺の頭を撫でてる人物こそ元凶な気がする。
……まぁでも俺は歩だけでよくやったと思う。
魅音の桂馬を取ったまではよかったんだが……。
どう足掻いても俺が動かせるのは歩のみ。
これで部長の魅音相手に戦いを挑むのは少し無理があった。

「つうか無理だろ」

当然の如く抗議する。
むしろこの条件で勝てるやつがいたら教えて欲しいもんだ。
そんなやつがいたら全身全霊で尊敬するぞ。
「あれぇ?勝負に負けたのをルールのせいにするワケぇ?」
くっくっく、と魅音が笑う。
「どう見てもおかしいだろ……歩だけでどうやって勝つんだよ」
「圭一さんは気合が足りませんのよ。見てて御覧なさいまし」
沙都子が慣れた手つきで駒を初期配置に戻し、歩を一つ取る。
そして1マス前に進めた。

カチ

その時の光景を何と言葉にしていいのか。
沙都子の持っていた歩が、俺には光り輝いたように見えたんだ。
そして次の瞬間、歩から放たれた光が敵陣をあっと言う間に包み込み……

ドォォォォン!

……敵陣の王将意外が全て吹き飛んだ。
つうか爆発した。
「をーっほっほっほ!楽勝ですわーっ!」
とりあえず無言で殴っとく。
沙都子は泣きながら梨花ちゃんの影に隠れた。
「変なトラップ使ってんじゃねぇぇぇ!こんなの実践で使えるかっ!」
一喝すると、沙都子はビクビクと小動物の様に震える。
梨花ちゃんはそんな沙都子を指人形を使ってなだめている。
「甘いね圭ちゃん。まぁ今のは極端だけど、歩オンリー正攻法でやっても勝てる人間もいるんだよ…?」
「……何だそりゃ。ホントに人間かよ」
「くっくっく!」
クイクイっと親指で後方を指す。
その指の先……

「はぅ〜っ!沙都子ちゃん泣いてる!かぁいいよぅお持ち帰り〜〜〜〜っ!!」

……レナだ。
すっかりかぁいいモードに入ったレナは、沙都子に頬擦りしつつお持ち帰りしようとしてやがる。
……梨花ちゃんまで巻き込んでるが、まぁ気にしない事にしよう。

「圭一くん!」
「な、何だ!?」

レナが突然こちらを振り向く!
咄嗟に意味もなくファイティングポーズを取ってしまった。
レナはそんな俺を無視して席に着く。
そして……
バババババ!
例えるならこんな音がしただろう。
レナが神速で将棋の駒を元通りにする。
果たして3秒かかったのだろうか。
あっという間に配置完了し、俺は首根っこ掴まれて席に着かされた。
「今度はレナと勝負!圭一くんに勝ったら……はぅぅ、猫耳沙都子ちゃんお持ち帰り〜☆」
……ふと横を見ると梨花ちゃんがにっこりと微笑んでいる。
畜生そう来やがったか。
これはマズイな。
「……おい、もう一度ルールを確認したいんだが」
「基本ルールは将棋と同じ!ただしレナの動かせる駒は歩のみ。圭ちゃんは普通に指しちゃっていいよ」
……ルール的には俺の圧倒的有利。
というか、普通に考えて歩オンリーで勝てるわけがない。
が、いかに歩のみとはいえ相手はかぁいいモードのレナだ。
本気で行かないと一瞬で飲まれてしまうだろう。

「……いくぞ」

まず最初の一手。
7六歩。
まぁこんな所かな。
レナは7四歩。
俺の歩とレナの歩、その2つの駒が睨み合い今にも相手を襲うかのように吼えている!
……フッ。
アッハハハハハハハハ!!
俺に真っ向勝負とはいい度胸してんじゃねぇかレナ!
だがな、この勝負で俺が負けるはずはねぇんだ。
歩、角、飛車、桂馬、香車、金銀!そして王将ぅぅぅぅ!
俺にはこんなにも頼れる駒がある!
しかーしレナ!お前には歩しかない……!
たかが歩!所詮歩!
この狭い将棋版の上でその運命を覆す事など不可能!
よってお前に勝ちは絶対なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!
(……ふ、悪いなレナ)
俺は意気揚々と次の一手を……。
「……?」
おかしい。
俺は確かに今飛車に手をかけたはず。
なのに手には先ほどの歩。
……試しにもう一度。
俺は飛車を取って……。

「……は?」

歩が手中にあった。
何だこれは。
落ち着け前原圭一、俺はきっと疲れてるんだ。
だから飛車と歩を間違えて取って……。
……いや、俺は確かに飛車に手をかけたはず!
なら何故歩を握り締めているんだ……!?
落ち着け、こんな時こそクールになれ。
冷静になってもう一度だけ飛車をとるんだ。
そうだ。歩を戻せ。
よし、そして飛車に手を伸ばして……
「……なっ!何だとぉッ!?」
俺はその瞬間のレナの行動を見逃さなかった。
何と恐るべき事に、俺が飛車に手を伸ばした瞬間、レナは将棋板を横にスライドさせていたのだ。
つまり俺が取ろうとした飛車の位置に、将棋板ごと動かして歩を持ってくる。
一見物凄いバカバカしい。
だが他の駒を揺らさず、しかも一瞬で正確に所定位置へずらす事は並大抵の事ではない。
かぁいいモードの神速レナだからこそ成せる技。いや、業と言っていい!

「つうか審判これアウトじゃねぇのか!」

魅音はニヤリと笑みを浮かべ、セーフのジェスチャーをした。
「圭一くぅん、早く早く〜♪」
机をバンバンと叩いて先を促すレナ。
くそ、こんな事って……!
……ああもうこうなりゃヤケだ!
どんな妨害があろうと全力でやってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

「クッ、また歩を取らせるのか!」

「ぐぉっ!またしても歩!!」

「ぬああああああまた歩だとおおおおおお!!」

「アッー!歩すらないッーー!」

 

 完   敗

 

魅音が四次元ロッカーから猫耳二セットを取り出し、沙都子と梨花ちゃんに装備した。
レナは満面の笑みで二人を奪取。
その後の光景はあえて口にするまい……。
「……フッ。天下の前原圭一が、たかが歩に負けるとはな」
「歩といえど侮っちゃいけないっちゅーことだね。はい、とりあえずコレつけて」
魅音から女物のスクール水着を手渡された。
名前欄には『双頭仮面 圭一』と刺繍されている。
何だそりゃ。
「で、何で俺がこんな物を……?」
当然の疑問だ。
俺がこんな奇妙なスクール水着をつけなきゃならない理由など、全く見つから……な……
「くっくっく!圭ちゃんわーってんでしょ〜?」

……魅音が言いたいのはつまりこういうことだ。
これは部活。
部活で負けた以上、罰ゲームは必須。
だから圭ちゃんはその格好で午後の授業を受けてね〜☆

「冗談じゃねぇぞオラァァァァァァァァァァァァァ!!」

帰路でならいざ知らず、いや帰路でも物凄い嫌だが!
これつけて授業受けろってのはもう、一種の拷問と呼んでもいいのではなかろうか…!
全くもって遺憾だ。これでは後輩に示しが……
「じゃあコレもつけとく?」
今度は真っ白なハチマキを差し出す。
そのハチマキには、赤い糸で『カレー撲滅キャンペーン』の刺繍。

「すいません俺が間違ってました」

こんな物つけて智恵先生の授業を受けた日にゃー、確実に命がない。
……クッ、相変わらず笑えない罰ゲームだぜ……!
「そうこなくっちゃね!くっくっく!」
「……みぃ。圭一のセクシー水着が見られるのです」
「智恵先生が来たらさぞ驚く事でしょうね……」
「はぅぅ!圭一くんがセクシー!?お持ち帰りかな!かな!?」

声援を背に更衣室へ向かう俺。
まぁいいさ、もう慣れたよ。はっはっは。
そう心に言い聞かせつつ涙を流す俺。
顔で泣いて心で笑う。
……意味ねー。

「……でもまぁ、悪くないよな」

この水着を着て帰った後の教室を想像して、ちょっとだけ含み笑いをこぼす。
別にこの水着を着るのが好きとかそういう意味ではない。
この雛見沢での生活。
都会じゃとても考えられなかった生活。
毎日が勉強勉強で、こんな仲間と笑いあうなんて考えた事もなかった。
都会でこんな罰ゲームを強要しようものなら、即刻『問題行動』と取られて大騒ぎとなってしまうだろう。
だがここでは違う。
する側も、される側も、皆が楽しんでそれをしているのだ。
雛見沢はそういう所。
そして、そんな仲間と笑いあう度に、ここの住人になったなあと実感するのだ。
けれどそんな俺の胸中など露知らず。
傍から見れば、女物の水着を手にしてニヤついてる男子生徒にしか見えなないワケで。
おかげでバッタリ出くわした校長先生に、どギツイ正拳突きを喰らう俺でありましたとさ。

 

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