近頃真紅からのメールが少ない。
少ないとは言っても、今まで一分間に十件来ていたのが七件に減った程度なのだが。
それでも、超が百個はつく程のくんくんフリークな真紅にしては、驚くべき変化だ。
よからぬ事を企んでいるだろう事はまず間違いないのだが、それを分かっていつつもメールが減った事を素直に喜んでいる自分が悲しい。
本格的に病んでるな、僕。
そういえばこの前、脳年齢診断をしたら余裕で八十歳超えてたし。
更には、将来癌になりやすい人マークシートも、全ての項目にチェックがついてしまった。
大丈夫なのかよ、僕。
そろそろ人間ドックにでも入った方がいいかも知れないな。
というか入院したい。
真紅のメールが届かない世界へ旅立ちたいよ、ほんと。
とか言うと自殺フラグ立ったみたいに聞こえるかもしれないけれど、それはちょっと怖いから無理。
それに真紅のメールなら天国まで平気で届きそうだし――。

『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……』

うわあ早速きたぞ。
僕を地獄へと誘う魔の音楽だ!
メールフィルターしてても、平気で貫通してくるから困ったものだ。
携帯を窓から投げ捨てたい衝動を必死で抑え、メールを開く。

 

件名 鋭意製作中!
From 真紅
マホマホー☆
ぬわーんと現在すんごい物を作っちゃったりなんかしちゃったりやっちゃったり!っていうか自画自賛?
てひひーその内公開しちゃりんこオブジイヤーでしー☆死刑だから!
ハッピー楽しみにていうかー、バリ期待してて?みたいなー?
でゎでゎ、アディオスだよもん!

 

相変わらずの版権台詞でごっちゃごちゃなメールだった。
これは一体何キャラ入ってるんだろう。
っていうか途中に変なのが混ざってるぞ。死刑だからって何だよ。
精神面に収まらず、物理的にも僕を殺す気なのか真紅は。
とりあえず、今のままでは読み辛い事この上ないので、文体を変えて貰うように要求する事にした。

 

件名 真紅ちゃん!
to 真紅
真紅ちゃん、いきなりだけどメールが超読み辛い!
二次元のキャラをこよなく愛しているのはわかるけど、さすがにごちゃごちゃ過ぎて読めないよ!
だから文体を普通に直して!出来ればメール送るのもやめて!
じゃないと、いい加減僕が死ぬから。精神的にも肉体的にも!
わかったかい?わかったね?っていうかわかれええええええええええええええええ!!!

 

送信っと。
かなりストレートに書いたつもりだけど、果たして真紅はその通りの意味で受け取ってくれるだろうか。
前例から察するに、かなり厳しい予感がした。

 

「きぃやああああああああああああ!マジなの!マジですのかしらくんくん!?

 

一階から響く、いつも通りの絶叫。
口調が変なのはこの際気にしない。
それよりもその『マジ』はどういう意味のマジなんだ。
くんくんからの絶縁メールを理解してしまい、辛苦の余り口をついて出た『マジ』なのか。
それとも、今回もまた奇想天外な解釈をした末の『マジ』なのか。
出来れば前者であってほしかった。

『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……』

真紅からの返信だ。

 

件名 嬉しい……
From 真紅
天にも昇る気持ちというのは、こういう事を言うのかしら。
くんくんから、その……き、キスしたいだなんて。
非常に照れるというか、何というか……興奮の余りキッチンを半壊させてしまったのだわ。
雛苺が暴れたということにしておきましょう。
あ、えっと……キスの事なんだけれど、もう少し待って頂けないかしら。
でも迷ってるという訳じゃないのよ?
私は凄く嬉しかったわ、それこそさっきから滝のような鼻血が止まらないほどに。
けれど、今私は大事なプロジェクトの遂行中なの。
だからもう少しだけ待って頂戴?
それに……フフッ、お楽しみは後に取って置く物なのだわ。
では御機嫌よう、くんくん

 

 

件名 真紅ちゃん!
to 真紅
真紅ちゃん、いきなりだけどメールが超読み辛い!
二次元の
ャラをこよなく愛しているのはわかるけど、さがにごちゃごちゃ過ぎて読めないよ!
だから文体を普通に直
して!出来ればメール送るのやめて!
じゃないと、
いい加減僕が死ぬから。精神的にも肉体的にも!
わかった
かい?わかったね?っていうかわかれええええええええええええええええ!!!

 

なるほど、後者か。

いや、まあ最初からそんな期待してなかったけどね。
目から溢れて止まらないこの液体は涙じゃない。尿だ。
それはそれで危ないんじゃないかと自身に突っ込んだ所で、何だか虚しくなった。
もういいや、今日は寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……』

 

目覚めは最悪。
こんな奇声に起こされるとは。
起き抜けの寝ぼけ頭で携帯を弄る。
――なんだ、まだ眠ってから二時間も経ってないじゃないか。
そのまま電源を切ってもう一眠りしたいところだったが、そうでもしようものなら、真紅は返事が来るまで延々とメールを送り続けてきやがる。
更に言うと、真紅のメールは電源を切っていても普通に受信する。あの奇声を出しながら。
絶対何かの特殊機能をつけているに違いない。
何度も奇声を聞くのは嫌なので、僕は若干衰弱しつつもメールを見ることにした。

 

件名 完成なのだわ!
From 真紅
フフフ、ついに完成したわよくんくん!
私がここ一週間、陰で何をしていたか知っているかしら?
名探偵の貴方なら、もしかするともう見抜いているのかも知れないわね。
わかったわ、白状しましょう。
私はホームページを作っていたの。
そう、くんくんへの愛を表現する手段の一つとして!
中身は、言うなればくんくん一色って所ね。
初めて作ったから内容は稚拙だけれど、けど本当に心を込めて作ったのよ。
だから、良ければ見にいらして?
http://kunkunaisiterumaziloveinuinuwanwan.co.jp
ではでは、またねくんくん♪

 

「ほ、ホームページってお前……」
そんな物作ってたのかよ。
とりあえず、書かれていたアドレスに飛んでみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死にたくなった。

 

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