「意味わかんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

魅音の書いた原稿を前に、思わず絶叫する。
アイツは一体何がしたいんだ。
沙都子、レナとほのぼの路線で来て、何故ここでロボットバトルなんかに……!
全然脈絡なくて逆に俺が焦ったぞ。
何ページか抜かして読んじゃったのかと思ったくらいだ。
「……で、問題はこれをどうやって繋げよう」
こんな順になったことを激しく後悔。
せめて一番最初だったなら……もうちょっとセクシー系の話を作ったりして……。
って今はそれどころではないぞ前原圭一!
明日までに書き上げねば、即罰ゲーム。
それは絶対に嫌だ。
――もう適当でもいいから書いちまうか。

 

 

―☆

 

 

ミサイルが着弾するか否かの刹那。
私の奥底に眠る能力が開花した。
「ぬおおおおお!ザ・ワールド!!」
時は止まった。
今のうちに私を縛り付ける拘束具を引きちぎり、ガラス窓を突き破ってコックピットから脱出する。
「はぁッ!」
続いて連続で印を結び……地獄の魔物を召喚!
激しい閃光と共に、私の左手に魔が宿った。
「みー」
「梨花の手!!」

ガッ!
バキッ!
ガコッ!!

空中で停止した弾を全て叩き落す。
そしてすかさず離脱!
「A.T.フィールド全開ィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
マンダムの周囲に絶対領域を最大展開。
「そして時は動き出す」
静止した時が再び動き出し、ミサイルが激しい爆発を起こした。

ドカァァァァァァァァァァァァァァァン!!

周囲の景色が全て吹き飛ぶ。
しかし、A.T.フィールドによって守られたマンダムには、傷一つつく事はなかった。
「……あ」

蒼を忘れてた。

 

 

―☆

 

 

「よし、後は挿絵をつけてっと」

 

 

 

 

うむ、画家の息子に恥じない腕前だぜ。

 

「って、これでいいわけNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」

 

今しがた書き上げた原稿用紙と絵を丸めて捨てる。
余りにもパクリ満載。
余りにも意味不明。
これでは魅音の作風と何ら変わりがない……。
むしろパクリ要素が増えてる分、俺のほうが悪質かもしれない。
「……よし、今度はもっとロマンチックにいこう」

 

 

―☆

 

 

ミサイルが着弾するか否かの刹那。
ロマンチックビーム!!
私の瞳が少女漫画の如くキラキラと輝き、ビームが放射された。
ビームは次々と弾を打ち抜いてゆく。
すると不思議な事に、このビームに貫かれた弾は、爆発した後『雪』となって散らばった。

「この季節に雪……なんてロマンチック」

 

 

―☆

 

 

無言で破り捨てた。
これはもっと無理があった。
「しっかし、どうしようか……」
この蒼の弾を何とかしないと話が進まないんだよな。
けど唐沢は拘束されていて、マンダムの操縦も不可能なわけだし。
やっぱ魅音、これは無理が……。

――いやいや、何を言ってるんだ前原圭一!

諦めかけていた俺の脳を、内なる情熱の魂がたたき起こした。
そうだ、俺は何をバカな事を言っていたんだ。
これからが本当の始まり。
俺の本領発揮はここからじゃないか!
眠れる獅子は、今まさに牙を剥いたのだ!グーテンターク!!(?)
うおおお!燃えてきたぜ!!
俺の魂に火がついた!!
それは燃え盛る大文字のように!
けれど俺の炎はただの炎じゃないぜ。
どんな炎よりも熱く、しかしクールに燃え滾る青い炎だ!!
見てやがれ魅音!
今からお前の難題を見事クリアしてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

―☆

 

 

ミサイルが着弾するか否かの刹那。
私は気合でそれらを何とかした。

 

 

―☆

 

 

「……よし」

流れ出る汗を袖で拭う。
カタカタと手が震えるのが分かる。
これは歓喜の震えだ。
この危機的状況をたった二行で解決できた偉業に、感動を禁じえない。
「後はちょっと切ないシーンでも入れてっと……」

 

 

―☆

 

 

ポタッ。
頬に冷たい湿り気を感じ、私は重い瞼をゆっくりと開いた。
「唐沢……さん……っ」
私は蒼の腕に抱かれていた。
「……蒼?」
蒼はとても悲しそうな目をしていて。
『どうしたの?』
そう言おうとしても唇が上手く動かず、代わりに激しい堰と胸に痛みが走った。
「唐沢さん、すぐ、すぐ病院に連れてってあげるから……!」
ポタッ
ポタッ
蒼の瞳から流れた雫が、私の頬に落ちる。
最初は冷たかったそれも、段々と温かく感じてきた。
重い手を伸ばして蒼の顔に触れようとするが、徐々に視界が霞んでゆく。
「あ…お………い……」
「唐沢さん!もう、もう……喋っちゃ……」
蒼の声が段々遠くなる。
私は薄れゆく意識の中、幼い頃の事を思い出していた。

公園でボール遊びをしている男の子達を、少し離れた所から眺めている私。
あの輪の中に混ざりたいけれど、それは出来なかった。
飛び交うボールを追ってワイワイとはしゃぐ声。
でも私はいつも蚊帳の外。
だって私は女の子だもの。
混ぜてもらえるわけがない。
だから見てるだけ。
遠くから一人で見てるだけ。
ボーッとボールを目で追っていると、不意にボールがこちらへ転がってくる。
恐らく手元が狂って変な方向へ飛んでしまったのだろう。
拾って投げ返そうか迷っていると、男の子の一人がボールを取りに走ってきた。
スポーツキャップを目深に被ったその子は、ボールを拾うと、あろう事か私の元へ歩み寄ってきた。
もしかしたら、何か言われるのだろうか。
どうして取ってくれなかったの?
何でずっとこっち見てるの?
男の子の口から出る言葉の想像して、内心ビクビクしている私。
けれど男の子は、私の目の前に立つと、想像とは全く違う言葉を掛けてくれた。
「一緒に遊ぼ?」
「え……」
「ずっとこっち見てたじゃない」
そう言って男の子は笑った。
気づかれてたのか、と私は少し赤面した。
「でも私は……」
「大丈夫だって!皆に聞いてこよっか?」
「……この前はダメって」
この前だけではなかった。
今まで何度頼んでも、あの輪に入れてもらえた事は一度もない。
思い出し、しゅんとする。
それを押すかのように、輪の中の子が早く戻って来いと急かした。
男の子は少し困ったような顔をして、うーんと唸った。
私のワガママで、この子に迷惑を掛けてしまっている。
この場は身を引こう。
誘ってくれただけでも嬉しかった。
だって、今まで声を掛けてくれた子なんていなかったのだから。
謝ってその場を離れようとしたとき、男の子はボールを輪の中に投げた。
ボールだけ。
訳が分からずきょとんとしている私に、男の子はニッコリと笑いかけて言った。

 

「じゃ、僕と遊ぼ!」

 

男の子が手を差し出してくれた。
私が何だか恥ずかしくて迷っていると、男の子は返事も待たずに私の手を取って……。
「行こ!この前基地作ったんだよー!」
そう言って引っ張った。
そのとき帽子のつばから微かに見えた瞳は、とても優しい色をしていて……。

それが蒼だった。

それ以来、私達は毎日一緒に遊ぶようになった。
一緒にキャッチボールをしたり。
蒼に泳ぎ方を教えてあげたり。
蒼の造った秘密基地を、私の家から持ってきた小物で飾り付けしたり。
女の子の友達と遊ぶより、ずっとずっと楽しかった。
あの時は何故だか分からなかったけど……。

 

そう。
今思えば、あれが私の――。

 

「唐沢さん!」
激しい堰。
口元から流れる赤い血を、蒼が何度も何度も拭ってくれていた。

段々終わりが見えてくる。
楽しかった時間もここまで。
けれど、それでも構わない。
だって最後に貴方と一緒にいられたから。

――でも、一つだけ心残り。

貴方といると毎日が楽しかった。
貴方のおかげで、知らなかった感情に気づけた。
私は……。
私は貴方と出逢えて幸せだった。
だから。
だから私は……。

最後の力を振り絞って伸ばした手は、蒼の頬に触れ、震える指で涙を拭った。

 

「なか……な……いで……」

 

貴方も幸せにしたかった。

私は蒼の温かい腕の中で。
最愛の人の温もりに包まれながら、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という話なんだけど、どうかな?」
「ど、どうと言われても……」
PC画面を見つめたまま固まっている蒼。
私が感想を尋ねると、途端に困った顔をする。
蒼は目を泳がせながら、必死に頭の中で次の言葉を探していた。
「何よ、ハッキリ言いなさいよ〜」
私は膨れっ面で蒼を睨み付けた。
すると蒼は観念したかのように、渋々と話し始めた。
「えっと……あ、あのさ。投稿する部門が完全に違うと思うな」
「えー!?何でよーーっ!」
私が素っ頓狂な声を上げたので、蒼が少しひるむ。
ちなみに私が投稿しようとしているのは、某雑誌の『推理小説部門』
最優秀賞の賞金100万円を取るために、一ヶ月掛けて地道に書き上げた。

――と蒼には言ってあるのだが、本当は雑誌に投稿する気など全くなかった。

「……じゃあ、何部門ならいいのよ」
「ホラー」
蒼の頭をあざらしのぬいぐるみで殴る。
蒼はごめんを連呼しながら笑った。
おのれー……。
そんな顔されたら、一発で許したくなっちゃうじゃない。
「それにさ、内容が半分実話ってのも何か恥ずかしい……っていうか、登場人物思いっきり僕らだし……」
「でもこれは小説の中のお話。蒼が恥ずかしがる事はないんじゃないかしら?」
私は小悪魔っぽく微笑む。
蒼はモジモジしながら「えー」なんて言ってる。
そんな蒼の仕草が可愛らしくて、私はもう一度笑った。

「でもさ、僕はこのお話好きだな」

私の笑い声で消えそうな位小さな声で、蒼が呟いた。
余りに突然だったので、少し面食らう。
蒼はそんな私を見て微笑んでいた。
何だか急に照れくさくなって、蒼に背を向ける。
蒼はそんな私の行動を逃さず、肩越しに私の顔を覗き込んできた。
「な、何よ……」
「別に?」
にやにやと笑う蒼。
う〜……。
赤いペンキがあったら、今すぐ顔に掛けたい気分。
完全に遊ばれているような気がする。
両肩を蒼に掴まれ身動きが取れない状態で、もじもじと俯く私。
「ねぇ、唐沢さん」
くるっと。
蒼が私の身体ごと、自分の方向に向けた。
蒼と対面する形になる。

「あのさ、君に言いたい事があるんだけど」

「……小説の真似がしたいのかしら?」
「違うよ。でも、この話を読んだから言う決心がついたんだ」
蒼が透き通った瞳で私を見つめる。
蒼のその瞳は、何故だか私の心をとても落ち着かせた。
だから、つい私も言わずにはいられなかった。
「……私からも、あるんだけどな」
「じゃ、同時にいく?」
「いいよ。でも、同時にだよ?先に言ったりしたら怒るよ??」
「あははっ、大丈夫。僕も照れくさいから一緒に言うよ」
そう言って蒼がはにかむ。
胸がドキドキする。
蒼も今こんな気持ちなのかな?
何だかちょっと嬉しくて、照れくさかった。

「じゃ、いくよ」
「うんっ!」

 

そう、これは投稿小説なんかじゃない。
世界中でただ一人に宛てた、蒼だけが読んでいい物語。
恥ずかしがり屋で、不器用な私なりに考えた、精一杯のラブレター。

 

 

「「せーのっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雛見沢リレー小説『ラブレター』 【完】

「……って、圭ちゃんよくここまで路線を戻したね」
原稿用紙と睨めっこしていた魅音が、感心したように顔を上げた。
「当然だ。なにしろ徹夜して書いたからな!」
魅音から原稿を取り上げ、教室中に見えるように高々と掲げると、静聴していたクラスメートから拍手が沸き起こった。
ちょっと誇らしげな俺。
いや俺は実際よく頑張ったよ。
もう3年分くらいの文字を使った気がする。
だからもう……。

――限界。

ぐったりと机に突っ伏す。
眠い。眠い。眠い。
なのでもう寝る。
ゆっくりと意識の扉が閉じていく中、俺は確かに聞いた。

「でもさ、プロローグ全く関係なかったよね」
「……みぃ」

梨花ちゃんの悲しそうな鳴き声を。

その瞬間俺の脳は活性化され!
眠気なんぞ一瞬で吹き飛ぶぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
俺は颯爽と椅子から立ち上がると、ワザと注意をひきつけるように教室中を闊歩した。
そして、わざと目立つ様に大声を張り上げて

 

「あっ!こんな所にマグマが!!」

 

教室の隅にあったバケツをぶちまける。
バケツからは汚水が溢れ、たちまち床を濡らしていく。
「わわわ……け、圭一くん何をしてるのかな……かな?」
レナが声を掛けてくるが、無視する。
次に俺は悟史のロッカーを開け、中から使い古された金属バットを取り出した。
「ちょ……にーにーのバットで何をするんですの!?」
沙都子も同じく無視。
俺は思い切りバットを振り上げ……床に叩きつけた。
床が割れ、鉄筋がむき出しになる。

 

「見ろ梨花ちゃん!古代遺跡だ!!」

 

ざわめく観衆。
俺は全てを無視し、最後の仕上げに入る。
大きく息を吸い、廊下に向かって高らかに叫んだ。

 

 

「カレーの○×аδ☆!!!」

 

 

大変な事になった。

 

 

 

 

[End]

 

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