今日も僕はコーヒーを飲みながら通販をしていた。

 

マグナム髭剃り 紋次郎
ダンディズムを徹底的に求めた髭剃り、その名も『紋次郎』
紋次郎が従来の髭剃りと大きく違うところは、ズバリ火力です。
そっと軽く当てるだけで、ヒゲが全て抜け落ちます。
その他にも特殊機能がいっぱい!
本品を作動させるだけで発生する特殊成分『男汁』は強力シェービングリーム!
「兄貴、今日も濃いけんのぅ」「兄貴の青髭……男らしいぜよ」フルボイス!
人工知能を搭載しているため、一通りの日常会話も楽々こなせます。
食事は毎日単1電池一本。
洗浄の際には、プロテインを溶かしたお湯に小一時間浸すとツヤが出ます。
こーんなお得な品が、なんと大セール!37800円にてご奉仕します!!

「兄貴…わし、わし、兄貴が買うてくれるんを待っちょる!ずっと待っちょるけんのう!!」

 

「いらねぇよ」

でも何故か購入ボタンに手が行ってしまうマジック。
嫌だなぁ、届いて欲しくないなあ。
しかし買い物カゴに入れてしまう僕であった。
「――ってしまった!このタイミングはッッ!!」
思わず背後を振り向くが、誰もいない。
「あれ、おかしいな」
いつもだと、このタイミングで雛苺が現れるはずなのに。
少し警戒したまま待機していたが、一向に雛苺が現れる様子はなかった。
「まぁ、来ないに越した事はないんだけどな」
僕は改めてパソコンに向かった。
しかし、販を再開する気にはなれなかった。
何だか気が乗らないし、落ち着かなかった。
「あー、調子狂うなあ……」
来たら来たで面倒だけど、来ないと少し味気ないというか。
思春期の少年の悲しき性なんだろうか、これは。
「……しかしよく考えてみると」
雛苺って普段何して遊んでいるんだろう。
怪奇ヒーロー、殺人料理、異文化人形劇に地獄絵。
僕の所に持ってくる物は、皆普通ではないものばかり。
あんなのばっかりやってたら、それこそ将来が心配だ。
「……よし」
ちょっと見に行ってみよう。
雛苺は普段何をして過ごしているのか。
常時あのホラー空間を放っているのか。
それとも僕の前でだけ異常なのか。
これは是非確かめてみなければ。

足音を立てないように1階に下りて、雛苺を探す。
雛苺に気づかれたら元も子もないので、こっそりとだ。
さて、雛苺はどこにいるのか。
トイレや鏡の部屋にいるはずはないので、捜索範囲から除外した。
だとすると――。

やはり居間にいた。
TVの前で、何やら絵を描いているらしい。
じっと観察していると、何やら歌のようなものが聞こえてきた。

「じゅーん じゅーん♪」

……僕?
僕の絵でも描いているんだろうか。
更に注意深く観察してみる。

「じゅーんはー」

「うにゅーとなかよしでぇ〜」

「いっしょにあそんでー」

「たのしいのぉ〜っ♪」

「うにゅー うにゅー」

「ほねまでまるごと とかされてぇー」

「じゅーんはうにゅーと」

「同化せざるを得なかったのです。えぇ、あの状況では。彼は弱い人間ですから…」

 

待て。
突っ込み所があり過ぎてどこから突っ込めばいいんだよこれ。
――とりあえず訳してみよう

『ジュンの歌』 
作詞 雛苺
作曲 雛苺
日本語訳 桜田ジュン

僕は
苺大福と仲良し
苺大福と遊んで
楽しいなぁ
苺大福 苺大福
骨まで消化されて
僕は苺大福と
同化せざるを得なかったのです。えぇ、あの状況では。僕は弱い人間ですから…。

訳わからん。
というか最後の一行だけ妙に丁寧なのは何なんだ雛苺。
今すぐ雛苺に殴りかかりたい衝動に駆られたが、今はまだ我慢する事にする。
当の雛苺は絵に飽きたのか、今度はおもちゃ箱から人形を取り出し始めた。
あの見覚えのある2体の人形は――。

「ま、間違いない。竜彦と敬一だ」

あいつ、まだ捨ててなかったのかよ。アレ。
あの人形で一体どう遊ぶのか、物凄く気になるぞ。
再びじっくり雛苺を観察することにした。
雛苺は2体の人形を持って、楽しそうに何か喋っている。
……何を言っているんだろう。
そっと聞き耳を立ててみる。

 

 

「敬一!た、頼む封印を解いてくれ!」

「竜彦よ!私も全く動けんのだ、助けてくれ!」

「無理だよ、このままでは大豆ビームも撃てないんだ……何とかして助けて!」

「私だってもずくウィップさえ使えたら…!うぅ、誰か剥がしてくれぇー!」

「誰か助けて!」

「私たちに気づいて!」

 

 

 

頭大丈夫か雛苺。
何だよこの悲惨なシチュエーションは。
っていうか、本当に子供が遊ぶおもちゃなのかよあの人形は。
これでいいのか、日本。
(今度こそ注意してやらんと……)
そう思って近づいてみるが、雛苺の姿がない。
――と思ったらソファーにいた。
なんと、既に寝息を立てている。
この短時間でよく眠れるものだ。
叱ってやろうと思っていただけに、何だか拍子抜けした。
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのも忍びないので、先ほど雛苺が描いていた絵でも見てみる事にする。
「どれどれ」

 

 

 

 

 

 

 

「僕もうにゅーも関係ねぇじゃん」

僕はその絵を真っ二つに切り裂いた。

 

SS目次 TOP